大河・篤姫が「その時歴史が動いた」篤姫と違う5つの点

先日、NHK「その時歴史が動いた 大奥 華にも意地あり~江戸城無血開城 天璋院篤姫~」の再放送があった。

「その時歴史が動いた」は、忠実に史実を再現する事をポリシーとした番組である。
今まで、信じられてきた歴史に対して、新たな実証、資料を元にして、新史実を紹介するところが真骨頂だ。

そこで、僕が気になったのは、この番組で紹介された史実の篤姫は、大河ドラマ「篤姫」と、いくつかの点で異なっていたという事だ。しかも、そのいくつかの点は、むしろ篤姫の特徴を現していたエピソードのような気もするのである。

僕が気になった点を上げてみる。以下の5点だ。

1)和宮との初対面における敷物
和宮との初対面において、史実では、篤姫が和宮に敷物の無い場所を指定したのだが、大河では、篤姫は敷かなくていいのか?といぶかるが、大奥総取締り・滝山に「必要ない」と進言され、そのような状態になった、ということになっていた。

2)江戸城退去を言い渡させた時の篤姫の態度
朝廷から倒幕の勅命が出て、討幕軍が江戸に迫った時、篤姫は城内からの退去を勧められるが、これを拒絶し、史実では短刀を構えて自害の姿勢を見せたという。
そうとう気性の激しい女性だったようだ。勝海舟は、こんな篤姫を評して「天璋院は貞婦というか烈婦」と記しているほどだ。
しかし、大河では、この場面では篤姫は退去に納得。その際に、「とりあえず、3日間だけ退去してほしい」という滝山の嘘を見破り、逆に、そのような嘘を付かせた滝山の心をいたわっている。

3)江戸城総攻撃を思いとどまらせるために西郷に送った手紙
史実では、西郷が江戸総攻撃を思いとどまったのは、篤姫からの「自分の命にかけても、徳川家の存続を嘆願する」手紙によってということであるが、大河では、むしろ、斉彬から篤姫への手紙を読むところで、西郷は号泣。日本を西洋に負けないような国にしたいという斉彬の意志を継ぐ、すなわち日本のためを思って江戸総攻撃を止めたということになっていた。

4)江戸城退去後に大奥に残された物
篤姫が江戸城から退去するとき、史実では、調度品等を全部置いてくる事によって、薩長に対して、徳川文化の厚みを誇示しようとしたのに対して、大河では、高寿院(家定の母)が活花をして、それに感化された篤姫をはじめ、他の女中達、みんなが活花をし、それを部屋に残し、乗り込んできた薩長軍の兵士を驚かせるというエピソードになっていた。

5)大奥退去後の女中達への世話
大奥退去後、史実では篤姫は、女中達の縁談、再就職先の面倒のため奔走したとのこと。そのために、死後、残された所持金はたった3円=現在の貨幣価値で6万円程度になっていたということであるが、大河では、その件は、江戸城開城前に、滝山に一任されていたようだった。篤姫の面倒見のよさを示すエピソードのはずなのだが、大河では、「気にかけている」レベルの話になっていた。

おそらく、本当の篤姫は、1)、2)、3)でも分かるが、気性が激しい女性だった。
また、1)、4)のエピソードを聞くと、かなりプライドが高い面も持っていたことがうかがえる。
さらに、2)、3)、5)で分かる通り、責任感が強く、人情味にあつかったようだ。

大河における篤姫よりも、かなり性格の輪郭がはっきりしている。
ようするに、本当の篤姫は、大河・篤姫よりもキャラが立っていたのではないだろうか。しかし、そのキャラはかなり古風である。

おそらく、上記のような史実の篤姫の武勇伝の多くが避けられたのは、随所で現代的な価値観を見せる大河・篤姫とのキャラの整合性をとるための対応だったのであろう。
例えば、「生きる」という事を第一とする現代の価値観からすれば、短刀で自殺しようとしたり、あるいは、自分を犠牲にしても徳川家を守って欲しいなどと言うのは矛盾してしまう。
また、1)のように、見方によっては姑の嫁に対する意地悪に見えてしまう振る舞いは避けられた。

ただ、4)の場面では、自分が先導して活花をしたとか、5)の場面では自ら奔走したというシーンにしてもよかったと思うが、それぞれ、ヒステリック、あるいは冷たいイメージの高寿院と滝山に華を持たせる形となっている。
この点は、逆に、結果として、篤姫の懐の深さを見せたのではないだろうか。

一方で、大河・篤姫は、史実としては可能性が低い小松帯刀や徳川家定とのユニークな男女関係が前面に出ていたが、これが多くの視聴者を惹きつけたのである。

◆篤姫関連のエントリー◆

大河ドラマ「篤姫」の視聴率がよかった11の理由
篤姫が私達にくれた6つのメッセージ
「篤姫」ヒットの一因に、普遍的な物語性があった
「イノラブ」「篤姫」「流星の絆」からの共通メッセージとは?
「篤姫」高視聴率は許婚システムへの憧れか
「篤姫」の家紋に物申す
鉄板少女から和宮への見事な転身
篤姫と世界に一つだけの花
篤姫の行動原理は極めて現代的だ。
篤姫 幕末に迷い込んだ現代女性

まさむね

「イノラブ」「篤姫」「流星の絆」からの共通メッセージとは?


9月のリーマンショック以来、金融恐慌が徐々に実物経済の不況に伝染してきている。
トヨタ、ホンダ、キャノンなどで派遣社員の契約解除、ソニーの大型リストラの話が世間を騒がせている。
大変なことだ。
おそらく、来年あたりさらに、失業者は増えていくのだろう。

心配なのは、それにつれて、自殺者の数も増加しそうということだ。
左表を見ると、悲しいほど、失業者数と自殺者数に相関関係にある。厳しい現実だ。

自殺の動機に関して、一番多いのは健康問題、次に経済問題だと言われているが、そういう問題を抱えていても多くの人は頑張って生きている。
おそらく、自殺するという事は、結局は、将来の向かって何の希望もなくなったということ、人間関係を断ち切りたくなったということである。
最終的には、人と人との結びつきしか、その増加を食い止める手段はないのだろう。
      ◆
さて、そんな現況の中、最近のドラマでも、自殺を阻止するような場面が多く見られる。
死のうとする人に対して、「死なないでくれ」というメッセージを積極的に出すことは、社会として重要な課題であるという認識が共有されているということか。

例えば、「イノセント・ラブ」において、佳音(堀北真希)の兄・耀司(福士誠治)がナイフで自殺しようとするが、殉也(北川悠仁)に制止される。
その時のセリフが「生きていて欲しい」だった。
そして最終回に耀司は言う。「何があっても生きなくてはいけないのですね。」と。
大河ドラマ「篤姫」でも、主人公の篤姫(宮崎あおい)は、自分は死んで官軍の江戸総攻撃を回避しようとする徳川慶喜(平岳太)に対して、「あなたも家族です。」と言って、自害を阻止する。
また、「流星の絆」、真犯人だった刑事(三浦友和)が自殺しようとするが、自分の両親を殺された有明功一(二宮和也)はそれを許さない。
原作では、この場面で刑事は自殺する事になっていたらしい。
ドラマ化する際に、殺させるのを良しとしなかったことがうかがえる。
そして、そのシーンに、敢えて「生きろ」というメッセージを込めたのだと思われる。

3作品とも、少なからず憎んでいた相手に対してのメッセージだったことは共通している。
      ◆
一方、冷静な目で見れば、こういった不況の時期は新しい才能が芽生える時期でもあることも事実である。
右表は、自殺者数の増加を年毎に表したグラフであるが、1998年に急激に伸びているのがわかる。
そして、1998年に年間3万人台に上がった自殺者数はその後、高値安定の状態になってしまっている。

1998年と言えば、前年の1997年に、山一證券、北海道拓殖銀等が破綻。
この年には、バブル以降最悪の不況だった年である。

しかし、同時にこの年、宇多田ヒカル、浜崎あゆみ、モーニング娘。、aiko、MISIA、椎名林檎、キロロ等、その後の大活躍する女性ミュージシャン達が次々にデビューしている。
おそらく、こういう時期だからこそ、人々の新しい心情、感情、人情を汲み取れるような新しい感性が登場するチャンスなのだとも言えるのかも知れないのだ。

不謹慎かもしれないが、そういう意味で、来年の音楽シーンは大変楽しみである。

まさむね

「篤姫」ヒットの一因に、普遍的な物語性があった

篤姫は、物語のアーキタイプ(典型)としても、優れているのではないかと思う。
アーキタイプというのは、典型的な物語の枠組みの事である(ここではそう使っている)。
例えば、世阿弥の「忠度」とか、「忠臣蔵」「水戸黄門」、西洋だと「シンデレラ」や「ロミオとジュリエット」がこれにあたる。
ようするに、それを典型として、いくつものバリエーションが生み出せるような普遍的な物語のことである。

では、篤姫は典型としてまとめるとするならば、どんな物語なのであろうか。

自由奔放に育った子が、心ならずも運命的に別世界に送り込まれてしまう。
そこには自分を苛めてくる数々の敵がいるが、その敵を一つづつ、自分の味方にしていく。
そして、その世界で、王子様と出会って、愛し合うことができるが、不幸にもその王子様は死んでしまう。
その王子様からのメッセージを心に秘め、さらに襲ってくる数々の敵を自分の味方にしつつ、難関を乗り切っていく。
その敵の中には、子供の頃に一緒に遊んだ仲間もいるが、それぞれの立場で最良の道を選んで進んでいく。
運命のしたがって、その別世界は崩壊してしまうが、その子は、最終的に、闘いの過程で味方にした仲間達と幸せに暮らす。

こんな感じだろうか。
篤姫では、この別世界は江戸城大奥だったが、それは老舗の旅館だったり、銀座のクラブだったり、大手町の大企業だったり、嫁入り先だったり、どんな設定でも物語は成立するような気がする。
それはバリエーションの問題なのだ。

今回、篤姫の大ヒットの原因の一つに、この物語の普遍性というのが追加できるかもしれない。
今後、このアーキタイプを活用したアドベンチャーゲーム、別のドラマ、小説などが多産されていくような気もする。

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まさむね

篤姫が私達にくれた6つのメッセージ

前エントリーで、大河ドラマ「篤姫」の視聴率がよかった11の理由を書いたが、今回は、その篤姫からの6つのメッセージを書いてみたい。
やはり、どんなジャンルでもそうだが、ヒットするコンテンツには、ユーザーに対する実践的なメッセージ(処世訓)が含まれているものだ。

篤姫という作品が、僕たちに送ってきたメッセージを以下の6つにまとめてみた。
 
 
 
1)迷ったら、自分の信じた道を行け
これは、父・島津忠剛(長塚京三)、義父・島津斉彬(高橋英樹)、母・お幸(樋口可南子)、夫・家定(堺雅人)達が、手紙や幻影の中で繰り返し、篤姫に伝えるメッセージである。
最終的に信じれるのは自分の感性であるというメッセージである。

2)自分の家族(身内)を大事にしろ
家定の幻影に言われることであるが、守らなければならないのは、財産でも、家でもなく、本寿院(高畑淳子)、滝山(稲森いずみ)等の「家族」(信頼できる仲間)である。そしてその心である。

3)運命に逆らわず、自分の役割貫け
これは「女の一本道」という表現があったが、薩摩の今和泉島津家の置く女中・菊本(佐々木すみ江)や、父・島津斉彬から伝えられる。

4)相手に対しては、自分をさらけ出せ
英姫(余貴美子)、島津斉興(長門裕之)、徳川斉昭(江守徹)、井伊直弼(中村梅雀)、和宮(堀北真希)等との確執をすべて、直談判で乗り切る。

5)生理的に合わない人にも優しくしろ
徳川慶喜(平岳大)に対しては、生理的にあわなかったが、そんな慶喜に対してもプライドを重んじて接し、生き場所を与えてあげる。

6)友人は、分け隔てなくつきあえ
上級武士の子であった篤姫であるが、薩摩時代に下級武士の西郷や大久保、有馬などとも等しく付き合う。後にその人間関係が生きてくるのだ。

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まさむね

大河ドラマ「篤姫」の視聴率がよかった11の理由

NHK大河ドラマ「篤姫」が高視聴率で全50話終了した。
平均視聴率は、24.5%で、ここ最近10年の大河では最高を記録したという。それによって、某視聴率稼タレントKさんが再来年の出演を尻込み、辞退し、結局、福山雅治に決定したとの噂話にもリアリティがある。
また、2008年のヒット商品番付では、関脇に選出された。
全体的にNHKの番組が支持されたこの1年であったが、その代表選手がこの「篤姫」だったのだ。
それは何故なのだろうか。

ヒットの理由を僕なりに考えてみた。

1)主演・宮崎あおいの魅力
宮崎あおいは、天璋院・篤姫の生涯のうち、12歳~49歳までを演じた。
彼女は、子役としてデビュー後、映画「NANA」等で好演し、評価を徐々に上げ、史上最年少で大河の主役に抜擢される。
史上最年少(22歳1ヶ月)の主役として、放映開始前から話題になった。
実際、スタジオで台本を持っているところはほとんど見られなかったというほど、完璧な役作りで、彼女自身が本当の篤姫になったかのごとく、を見事演じきった。
実際、江戸城開城を前にして、一千人の女中に大奥明け渡しを伝えるシーン撮影の前夜はソワソワしてしまったという。それほど、役にのめり込んでいたという事だ。

2)幕末という大変革の時代と現代とがシンクロ
現代は100年に一度の大変革の時代と言われている。多くの日本人はそんな激流の中、将来への不安を心に抱いている。
そんな現代という時代状況が、篤姫が生きた幕末と酷似していると言われている。
特に、徳川幕府の大奥という、あの時期、衰退を余儀なくされた既得権益集団をどう、終わらせていくかという、一見地味だけど、物凄く困難な状況を乗り切った篤姫の人間性、判断力、説得力が、これから退潮を余儀なくされるであろう現代社会を生きる、多くの日本人の共感を呼ぶところだったのではないか。
現代に蔓延する閉塞感を切り開くためにはどうしたらいいのか。視聴者一人一人が、こういった疑問の答えを模索する中で、篤姫に惹かれたのではないかと思う。

3)周りの男性が草食系
篤姫が子供の頃から男勝りで積極的な少女として成長したが、彼女を取り巻く男達は、それに比べて情けない性格で、最近よく言われる草食系男子として描かれていた。
積極的に女性を求め、ギラギラした人物はあまり、出てこないのだ。
草食系男優の代表格・瑛太が小松帯刀を、ひょうひょうとした性格俳優の堺雅人が徳川家定を演じた。
瑛太は、尚五郎の情けない青年時代から、時代を動かすほどの傑物・帯刀への成長を上手く演じた。
篤姫と再会すると、以前の尚五郎に戻って伏し目がちになるところ等、出色だ。
また、他の人々の前では”うつけ”のフリをしているのだが、篤姫との寝室だけ、本来の聡明さを見せる家定は魅力的だ。
第48回放送時に、幻影として復活した家定が再び”あの世”に帰ろうとする時に、一瞬、篤姫がついて行こうとするシーンは、大河史上でも名場面として今後も語り継がれるだろう。
さらに、松田翔太も、若いながら気品と思いやりのある名君・次代将軍の家茂をよく演じていた。

4)大奥バトルという見せ場
フジテレビのドラマ「大奥」等によって、江戸時代の大奥で繰り広げる女の戦いが、見せ場として認知されてたという背景がある。
今回の場合、大奥だけにとどまらず、篤姫の教育係の幾島(松坂慶子)との確執、島津斉彬の妻の英姫(余貴美子)との確執、家定の母・本寿院(高畑淳子)との確執、大奥総取締りの滝山(稲森いずみ)との確執、そして皇女和宮(堀北真希)との確執等、様々な闘いを持ち前の明るさで乗り切るシーンはそれぞれ見せ場を作った。しかも、それぞれのシーンは上品さ(例えば、和宮の堀北真希)、ユーモア(例えば、本寿院の高畑淳子)、適度な嫌味(例えば、庭田の中村メイ子)によって、陰湿な感じを抱かせなかったのがよかったと思う。
こうしたシーンは、普段、女同士の闘いに疲れている現代のOL達、主婦達に支持されたのではないか。

5)衣装美術等のアイテムが本物志向
他局での大奥物の衣装が、金柄の布で派手さをアピールしているのに対し、今回の大河ではあくまで史実に忠実であろうと、柄よりもむしろ生地に本物らしさを感じさせた。
また、手元の小道具や、駕籠などの大道具、大奥の庭、建物などもリアリティがあった。
惜しむらくは、西郷の家紋が蛤門の変の時点で抱き菊になっていた点、水戸家の家紋が徳川宗家と同じだった点など、家紋に関する考証はいまひとつだった。

6)篤姫のシンデレラ結婚、上流生活への憧れ
今年の流行語のひとつに婚活というのがあった。
最近の女性(男性も)は積極的に結婚のための活動をしなければならない時代になったという事だ。
そのように、ある意味厳しい時代を生きざるを得ない結婚願望のある女性達にとって、許婚制度、篤姫の玉の輿婚は憧れであろう。
また、(様々な苦労はあるのだろうが、)篤姫に登場する江戸城大奥での上流階級の生活も庶民にとっては、垣間見てみたい世界なのである。

7)幕末のキャラは一応おさえる
篤姫の時代は、歴史ファンの間にも人気のある時代だ。
特に坂本龍馬、西郷隆盛、勝海舟等は人気があるが、「篤姫」では彼らを上手に話の中に取り込んでいた。
しかも、幕府側からみた幕末、という今まであまりなかった視点は新鮮を感じさせ、歴史ファンを喜ばせてくれたのではないか。
また、西郷と大久保の二人の関係を、それぞれの不遇の時期、活躍の時期の表情を、原田泰造、小澤征悦の二人がよく表現していた。

8)ドラマ全体から伝わってくるメッセージが現代的
篤姫が様々な試練を前にして、決断を迫られる時、義父・島津斉彬(高橋英樹)、実母・お幸(樋口可南子)、家定(堺雅人)からのメッセージを思い出す。
それらは、最終的には「己の信じた道を進みなさい」という価値に集約される。
江戸時代の武家の女がこのような価値観を持っていたかどうかの歴史考証は置いておくとして、行動原理が自分の外のどこか(宗教、慣習、学問等)にあるのではなく、自分の中の素直な気持ちにあるという価値観は、いわゆる戦後民主主義の価値観と通底している。
現代人に自然に入っていったのではないか。
また、「最終的に家族を大事に」というメッセージもあったが、その大事にするものは、血のつながりではなく、財産でもなく、(徳川の)心なのである。
それではその心とはさらに具体的に言えば何なのかという点は深くは掘り下げられてはいないが、逆に具体的でないがゆえに多くの視聴者の心に響いたのではないか。

9)歴史上での篤姫の失敗を上手くカバー
実は、この作品が世に出るまで、天璋院は不幸な女性と言われていた。
政略結婚で大奥に入るが、夫の家定はすぐに亡くなってしまう。息子の家茂も夭逝してしまう。
そして、和宮との確執。大奥明け渡し、明治に入ってからは旧女中達の面倒を見るなど、苦労に苦労を重ねた人生のように言われていた。
特に明治時代以降は、時代背景もあって、和宮と対立した天璋院の評価は低かったのだ。
しかし、今回のドラマではそういったネガティブな天璋院像はなかった。
むしろ、前向きで明るい人生であるように表現されていた。この演出力は素晴らしい。
また、一橋派の策略(慶喜擁立)に失敗。徳川幕府存続にも失敗している。ただ、その失敗はドラマの中では、”大事なのは、権力の保持でも城に居座る事でもない。家の心を残すことだ”という価値観によって、見事に、自然に正当化されて表現されていた。あまり不自然には感じられなかったのである。

10)ボーイッシュな女性が活躍する現代という時代背景
最近の芸能界で活躍している女性を見てみると、一様にボーイッシュな女の子が人気となっている。
以前(10年位前)、イエローキャブの女の子全員にインタビューするという機会があったが、その際、小池栄子、MEGUMI、佐藤江梨子、根本はるみ等、その後、活躍する女の子達はみんな子供の頃の遊び相手は男の子だったと言っていた。逆に見た目は魅力的だが、性格が女っぽい娘は、全員、その後大成しなかった。
また、最近、低調なハロプロだが、その中でもボーイッシュな里田まいと矢口真里が現在でもテレビ芸能界で活躍しているという現象も興味深い。
おそらく、現代は、男ウケする女性よりも、ボーイッシュな女性の方がテレビウケするような時代なのではないか。
篤姫が子供の頃から男の子と遊ぶのが好きだったというエピソードは篤姫人気の一つの隠し味だったような気もする。

11)オヤジ殺しとしての篤姫
高視聴率だったということは、中高年の人々にも広く受け入れられたという事である。
篤姫の、どんどん積極的にオジさんの胸に飛び込んでいく性格は、それらの中高年の人々にも好感を持たれたのではないか。
例えば、調所広郷(平幹二朗)、島津斉興(長門裕之)、徳川斉昭(江守徹)、井伊直弼(中村梅雀)、阿部正弘(草刈正雄)、勝海舟(北大路欣也)等、一癖も二癖もあるオヤジ連中に対して、ひるまず、正面から自分をさらけ出す事によって、最終的にコロッといかせているのだ。
オヤジあしらいの天才としての篤姫という側面も視聴率アップに貢献したのではないか。

以上、勝手に推測させていただいた。
みなさんもそれぞれ考えてみてください。

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「イノセント・ラヴ」と「流星の絆」の共通性

昨日、TBSドラマ「流星の絆」はふるさとを喪失した兄弟の物語だと書いたんだけど、本日放映されたフジの月9ドラマ「イノセント・ラヴ」も同様の主題だった。

人気ドラマが偶然にしても同様の主題を扱うと言う事自体、根っ子が無くなってしまった人々、政治のみならず地域からも阻害された人々をどうするのかという事が社会的なテーマとなりつつある事情が背景になっているのではないかな。

さて、この「イノセント・ラヴ」だけど、堀北真希演じる秋山佳音のキャラクタがちょっと固まっていない感じがするよね。
よく働くいい娘なのだが、突然別の面を見せる。
携帯で他人を盗み撮りするは、写真自体を盗もうとするは、と倫理観が無いようなのだ。
しかも、写真を盗むところを見られ、逆に優しくされた相手(北川 悠仁演じる長崎 殉也)を好きになり、彼の家に突然、プレゼントを持って会いに行く。

動機が純粋であればいいということか?
だからイノセントなのか?

まぁその他、北川悠仁が”棒”だって問題もあるけど、このドラマ、「ラストフレンズ」と同じく浅野妙子が脚本なのでしばらく見続けてみようかな。

ちなみに、最近の堀北真希といえば、「篤姫」の和宮役のイメージが強いんだけど、ここ数週間、長州征伐で大阪に行ってしまった愛する夫の徳川家茂の写真を見ながら、モンモンと過ごす可憐な和宮のイメージを、「イノセント・ラブ」は見事に引き継いでいるなぁと感心した。その辺りはフジってさすがだよね。

まさむね

「篤姫」高視聴率は許婚システムへの憧れか 

「篤姫」の視聴率が相変わらず好調らしい。

篤姫と和宮の、己の運命を受け止めて、その中で前向きに生きていく、生き方が逆に現代の若い人々にとって新鮮に映っているのかもしれない。

特に、和宮の表情が心を打つ。
元々、和宮は、他に結婚相手が決まっていたのだが、幕府と朝廷との政略的意図により、心ならずも徳川家茂に嫁ぐ。
しかし、家茂の人柄に段々心を惹かれていく。
長州征伐に向かう家茂、ただ、黙って見送るしかない和宮。
和宮の家茂への想いの深さが伝わって来て、まさしく切なさの極致だった。

さて、最近の二十代の女性は、酒井順子の『負け犬の遠吠え』以降、「絶対に負け犬になりたくない」と早くから結婚を意識しているという。(「婚活時代」山田昌弘、白河桃子共著 より)
そんな彼女達にとって、結婚活動(婚活)でバタバタ動き、時に恥をかき、時に傷つくよりも、周りの人が勝手に段取りし、否応なしに運命の御相手と結ばれる、いわゆる「許婚(いいなずけ)」システムが一周して憧れとして感じられても不思議がないような気がする。

「篤姫」の高視聴率は、そういった憧れに支えられているのかもしれない。

まさむね

「篤姫」の家紋に物申す

satumakamon.gif篤姫のような本格的な時代ドラマを見ていると、僕はどうしても(若干の悪意を含みながら)登場人物の家紋に目が言ってしまう。

いつも気になるのが、徳川家茂と一橋慶喜の家紋が同じに見える事。
ものの本によると、三つ葉葵でも、徳川宗家の家紋は3つの葉が中心がくっついているが、一橋家では離れていたらしい。
まぁウチはまだアナログテレビなので、微妙な差異は見分けられないんだけどね。

そして、今日の「篤姫」で気になった事。

本日の放映回では、西郷隆盛が島津久光に許されて薩摩の軍役に復帰するのだが、その際、紋付を羽織っていたのだが、その家紋が「抱き菊葉に菊」(写真真中)だった。
確かに、西郷さんといえば、この「抱き菊葉に菊」と言われているのだが、この家紋は明治天皇から下賜されたもののはずだ。
という事は、禁門の変(1864年)の時点で西郷隆盛がこの紋付を着ているのはおかしいのではないだろうか。

それでは、西郷の元々の家紋は何だったのであろうか。
多磨霊園にある、西郷隆盛の弟の西郷従道の墓の家紋は写真一番上だ。
これが、梶の葉なのか、菊の葉なのか、僕にはちょっとわからない。
しかし、ここからは推測だが、元々、菊の葉の家紋だった西郷家の隆盛に対して、明治天皇が「私をずっと守ってほしい」という意味を込めて、その菊の葉が囲む菊の花の紋を与えたのではないか。

さて、西郷と言えば、大久保だが、青山墓地にある大久保利通の墓にある家紋は写真一番下。僕には藤巴紋に見える。
ちなみに、この藤巴紋は、寅さんで有名な渥美清の本名、田所康雄の家紋でもある。

家紋を調べていくと、全然別のキャラクタの人々が同じ紋を持ってたりするから面白い。

まさむね

篤姫と世界に一つだけの花

先日、篤姫の「己の心に従って行動せよ。」という行動原理に関して話をした。

この行動原理の基となる価値観は、我々の”外”のどこかに普遍的な真実が存在しているのではないということだ。

逆に言えば、真実はそれぞれの個人の中にある、尊重されるべきは個性だという事にもつながる。

2003年3月に発売され、今世紀最大のヒット曲となったSMAPの「世界に一つだけの花」は、このような”個性主義”の応援歌としてあまりにも大きな影響を社会に与えた。最近では、学校の卒業式などでも歌われるという。
でも、この歌を歌わせて、ハイさようならっていう学校はいいかもしれないが、現実社会は、この歌のようにはいかない。(元々、花屋の店先に並んでいる花は品種改良をされ、間引きを逃げ抜けたエリートじゃないかっていう批判もある。)

先日、家の近くの花屋の店先で、店長が店員に花を投げつけて、なにやら怒っていた。悲しすぎる光景であった。

最初は、ナンバーワンになろうと思ったけど、この歌の影響でオンリーワンでもいいかって悟り、競争から降りたはいいけど、社会から、オンリーワンなんて不要ってNoを突きつけられた挙句、就職できなくて、ロンリーワンという名のニートになってしまった人、多いんじゃないかな。

現実はいつも残酷だ。

まさむね

篤姫の行動原理は極めて現代的だ。

NHK大河ドラマの主人公の思想には放送当時の社会の価値観が反映されている。

例えば、私が見た限り、何度もドラマ化された戦国時代の信長や秀吉、家康達は、例外なく、「いくさの無い平和な世の中」を最終目標としていた。そこでは、”家”を存続させるためには、敵は滅ぼさなければらないという、当時としては当然の価値観は周到に隠されているのである。

そして、現在、放映されている「篤姫」においても、歴史上人物の行動原理に、現代の価値が入り込んでいるという現象はいくつか見られる。
気付いたものの一つ目。篤姫の薩摩時代、義父の島津斉彬に「何故、薩摩が軍備増強するのかわかるか?」と問われた篤姫は「それは戦をしないためです」と明確に回答し、斉彬を驚かせるという場面があった。
これは、(いい悪いは別にして、)明らかに、現在の自衛隊を正当化する理論と一致する。

もしかしたら、このような価値は、ここ10年位前から、ようやく表明できるようになったのではないだろうか。
例えば、1973年の「国盗り物語」における信長、1981年の「おんな太閤記」における秀吉が、このような価値表明をしていただろうか。興味深いところだ。

そして二つ目は、篤姫の「己の心に従って行動せよ。」という行動原理だ。これは、何度も繰り返し放送されているが、母からの言葉であり、先週放送の「二つの遺言」では斉彬からの最後の手紙にも記されていた。

恐らく、この行動原理は、砕いて言えば、「価値観は人それぞれだ」「自分が何をしたいのかを考えろ」「自分の感性に従って行動しろ」「自分の行動は自分で責任を持て」という極めて現代的、民主的なものだ。
今回の「篤姫」の人気の秘密は、彼女のこうした現代的行動原理が、様々な旧弊かつ閉塞的な状況を打破していく痛快さにあるに違いない。

さて、本日(20日)の放送でも、他言は禁止されていた将軍の死という秘密を、自分の感性のおもむくままに側室と生母に伝える事によって、それぞれのギクシャクした女同士の関係を修復し、篤姫から天璋院へと成長していく。

今後、ドラマは、大老の暗殺、和宮降下、江戸城開城というように劇的な展開を迎えることが予想されるが、その都度、彼女の行動原理はどのように状況を打開していくのか。楽しみである。

まさむね