「29歳のクリスマス」と「ラストフレンズ」の埋め難い時代差

「29歳のクリスマス」(以下「29X」と略す)の再放送を見ていると、今年の春に放映された「ラストフレンズ」(以下「LF」と略す)とどうしても比較してしまう。

男女(3人以上)が一つ屋根の下に暮らす青春群像ドラマである点、木曜日22:00~といういわゆる大人のドラマ枠での放送という共通点はあるものの、2つのドラマには、どうしようもない時間の隔たりがあるような気がする。
その隔たりは14年間。
その間、平成の大不況、金融ビックバン、構造改革等いろいろな事があった。
多くの人の生活実感として、時代は閉塞感を増している。あらゆる意味で、将来に対する希望がなくなってきているのだ。

おそらく、それらの社会状況の変化がこの2つのドラマの間に横たわっているのではないか。

2つのドラマを比べてみると、登場人物の元気さがまるで違う。
「29X」における典子(山口智子)、彩(松下由樹)、賢(柳葉敏郎)はお互い同士、思いやるが、それは、互いに世話を焼きあうという積極的な振る舞いで表現する。
だから、すぐに喧嘩になる。自分の価値観を相手に押し付けようとして、そして反省して、の繰り返しなのだ。

一方、「LF」における岸本瑠可(上野樹里)、藍田美知留(長澤まさみ)、水島タケル(瑛太)がお互いを思う気持ちは「29X」には劣らない。
ただ、彼女らは極めて大人しいのだ。
ある意味、老成しているといっていいかもしれない。
そして、「LF」の3人は、お互いの領域に踏み込む事はしない。あくまでも、相手にとって、好ましいキャラになろうとする。
それが現代の優しさの倫理なのであろう。
最終的に、3人は、お互いのトラウマを癒しあう関係になるのだ。

これは、いわゆる時代の閉塞感という事と大いに関係があると思う。バブルと地続きの90年代前半、「29X」の時代、彼女達はまだ、努力すれば社会的に上昇出来るという価値観の中にいる。
しかし、一方、「LF」では、そういった社会に対する、あるいは、努力に対する信頼感が感じられない。だからこそ、彼女達は手に職をつけて生きていこうとするのだ。

また、「29X」の登場人物達はいつも、目の前の世界に対して戦いを挑んでいるのに対して、「LF」では、いつまでも過去のトラウマ、自分の宿命との戦いがメインとなっている。
例えば、「29X」では、典子は、仕事上の挫折や恋愛等の外の世界と戦うが、「LF」の瑠可は、性同一性障害に悩み抜く。
彼女の戦う相手は、自分の中にあるのだ。
ACとか性的虐待とか、性同一性障害などという極めて限定的だと思われていた症例が、社会の前面に出てきて、人々にリアリティのある言葉として認知されてきた現代、とそれ以前の時代。
大げさに言えば、「29X」と「LF」の間には、そういった時代の段差を感じさせるのである。

また、2つのドラマに横たわる幸福観の違いにも目を惹かれる。
「29X」では、幸福=結婚という価値が素朴にも信じられている。
典子が彩に叫ぶ。「どうして私だけ幸せになっちゃいけないの?!」
ここで言う幸せとは、恋愛=結婚のラインに乗る事なのだ。

ところが、「LF」では、結婚は全く大きなテーマではない。
シェアハウスでにおいて、脇役として存在していた滝川エリ(水川あさみ)と小倉友彦(山崎樹範)が結婚はするのだが、それはあくまでもサブの扱い。
そういう生き方もありますよ的な扱いにすぎないのだ。

こんなに異なった世界の2つのドラマではあるが、面白い事に、最後の結末が奇妙な一致を見せる。
両方とも、みんなで育児をすることによって、新しい関係を築こうとするのだ。
もちろん、「29X」ではそうなる過程で、さんざん罵倒、葛藤、喧嘩があるのに対して、「LF」では微笑み一つで物事が進んでいく。
確かにその違いはある。
ただ、2つのドラマの最後に提示される新しい生き方が近いという事に、もしかしたら、時代が変っているように見えるのは表面的なことで、実は女の情(子供に対する愛情)というものは根本的には変らないという事を見るべきなのかもしれない。

また、ちょうど本日、今年の流行語大賞を獲得した「アラフォー」というもう一つのドラマでも、最後に、森村奈央(大塚寧々)の子供を、 緒方聡子(天海祐希)と竹内瑞恵(松下由樹)が可愛がるというシーンが出てくるが、それも「29X」と「LF」と同様に、子供をみんなで育むことこそ時代の閉塞感を打破することに繋がるということなのであろうか。

まさむね

14年前の「29歳のクリスマス」再放送の評価は?

「29歳のクリスマス」(以下、「29X」と略す)の再放送が始まった。

最近は、再放送と言えば、リアルタイムで放送しているドラマの番宣的位置づけで、主役の前作(例えば「セレブと貧乏太郎」番宣のための「暴れん坊ママ」再放送など)を流すというのがオーソドックスパターンなんだけど、いきなり、14年前のこの作品が時を越えて登場したのだ。
このドラマを見ていると、いろんなところに、14年の間の社会の変化を感じる。

僕は、「29X」に特徴的なキャラクタ、価値観を以下の10点にまとめてみた。

1)友達同士、すぐに会う。
これは、携帯電話まだ普及してないっていう技術的要因が大きいんだけど、お互い何かといえば、すぐに会う。仲がいいのだ。
そして、会っては、飯を食い、酒を飲み、大騒ぎする。

2)基本的に真面目
「29X」の彼・彼女達は、生き方に関して真面目である。
自分が決めた生き方に関して、頑張ろうとするプライドと意志と行動力を持っている。

3)女性の化粧が大きく変った。
基本的に、14年前の化粧はケバい。っていうか、色っぽい。とにかく、女を前面に出している化粧なのだ。

4)女性が男社会と闘っている。
男女雇用機会均等法が改正され、雇用差別が撤廃されたのが、1985年。
それから、男社会に徐々に進出しはじめた女性達が、個々の現場で奮闘する姿がドラマ主題の一つとなる。
「29X」でもまさに、これが一つのテーマ。
レストランの店長をさせられる典子(山口智子)、テレビカメラマンの彩(松下由樹)、彼女達は闘う女としての一面を色濃く持っている。

5)男女それぞれが異性を見る目が野生的。
図式的に結婚に関して言えば、70年代にお見合いのシステムが崩れ、80年代に職場結婚(総合職男子と一般職女子の結婚)が崩れ、そして、80年代末~90年代にかけて、いわゆる野生的婚活時代になるのである。
今から見ると、みんなギラギラしていた。

6)恋愛と結婚が近い
大前提として、付き合うって事は、最終的には結婚する可能性をどこかに抱きながらの行為なのだ。

7)結婚における家の存在感がある
これは、「29X」だけの話かもしれないが、結婚というのが、まだ二人だけの関係というところまでは行っていない。
それはお互いの家と家との結婚という面がまだ残っているのだ。

8)結婚相手の条件として三高が残っている
三高(高学歴、高収入、高身長)の男が価値の有る存在として描かれている。
「29X」では、木佐裕之(仲村トオル)が、それに当てはまっている。

9)30歳というのが大きな意味を持つ
このドラマでは、典子(山口智子)の有名なセリフがある。「30歳の誕生日には 最高に幸福になってやる 絶対に!」。
そのために、逆算して、29歳のクリスマスには男をゲットしなければならないのだ。

10)お互い干渉しまくる
「29X」では、お互いの恋愛、結婚、生活、仕事に関して、お互い干渉し合って、エキサイトしてくると罵り合ったりもする。
「29X」は、「ラストフレンズ」同様に、男女のルームシェアが行われるが、お互いの関係性は全く違い。
「ラストフレンズ」では、一緒に住みながら、お互いの価値観を押し付けあおうとしないのだ。

おそらく、上記のような価値を持つ人は現在でも多く存在していると思う。
ただ、そういった価値観を持つ人が相対的に少なくなったのである。

どちらかと言えば、現代では、上記のような価値観は上流指向的発想と言われるものに属する。
15年前位では、これがいわゆるメジャーな考えだと思われて、しかも当たり前とも思われていた。だから、そうでない状況の人々も、ある種、憧れとして認知して、見ていたのではないか。

ところが、現代は、上記価値観に関して、それはそれとして、残存しながらもっと多様な価値観がどんどん出てきた。
オタク派、手に職派、ヤンママ派、キャリアウーマン派、環境派等が混在していて、それぞれがあまり交流を持たないような状況になってきているため、ドラマとして、一つの物語に収める事が難しくなってしまったのかもしれない。

そういえば、最近は普通の人々を主人公にした普通の恋愛ドラマが全くなくなってしまった。
物語の要素として、必ず、過去のトラウマ、不治の病、特殊な職業、特別な事件、サスペンス的要素などが無いと、現代では、ドラマとして、成立出来なくなってきているのだ。

さらに、29歳というか、30歳位の年齢の人たちが主役になるドラマっていうのも無くなって来てると思う。

「イノセントラブ」「流星の絆」「ラストフレンズ」のように、いわゆる恋愛物と言われるドラマですら、主役達は、20代前半である。
これは、恐らく、ドラマのメインターゲットである女子高校生達が、30歳位の女性を自分の延長的存在として見られなくなってきている事、せいぜい、25歳くらいまでのドラマにしか共感できなくなってきている事がまずある。
さらに、同時に30歳位の女性も、気持ち的には20代前半でいる(無意識的に強引にいようとする)ため、彼女達が共感出来る年齢が下方に伸びて、20代前半になっているからだ。

かくして、恋愛、結婚、仕事、友情という”みんなが共有する”大テーマを扱うTVドラマが死滅してしまったわけであるが、今回の「29X」の再放送は、現代人にどう評価されるのか。
今回の再放送は、最近打つ手がなくなってきている感のある、テレビ局にとっても一つの市場調査的意味合いがあるのかもしれない。

まさむね