桑田佳祐 普通のモテない男の妄想歌

加勢大周が覚醒剤、及び大麻の不法所持で逮捕された。

加勢大周といえば「稲村ジェーン」だ。
駄作だという人も多いようだが、僕は逆。桑田さんのいろんな想いが詰まった名作だと思う。
見れば見るほど、奥深いんだよね。

暑かったけど 短かったよなぁ…夏

この映画のキャッチコピーがこれだ。
期待に胸を躍らせながら迎えたのはいいけど、何もなかった夏。
誰しもが経験したホロ苦い青春の1ページ、「稲村ジェーン」のテーマの一つなんだけど、それは、桑田佳祐の音楽のモティベーションでもあると思う。

あるデータによると1955年~1964年生まれの70%位の男性の結婚前に付き合った女性の数は3人位までという。
結婚する平均年齢を30歳位とすると、15歳~30歳の15年で3人というのは、どう考えても多いとは言えない。
また、ちなみに結婚まで一人ともお付き合いしたことない男は15%いるらしい。
ようするとほとんどのこの年代の男は基本的にはモテてないのである。

桑田さんの音楽が多くの人の共感を呼ぶのは、この年代に属する彼の”モテなかった夏の記憶”が歌の歌心の根本にあるからだというのが僕の説だ。

C調言葉に御用心、経験Ⅱ、マンピーのG★SPOT、ゆうこのマンスリーディ、いなせなロコモーション、気分しだいで攻めないで…

桑田さんの曲って猥歌が多いでしょ。
70年代の学生って異性と知り合える機会が少なかったから、大多数のモテない男同士は、誰かの下宿とかで、ギター弾きながら、みんなで猥歌を歌って発散したんだよね。
桑田さんの音楽ってこういう発散の男文化の尻尾をひきづってる。(ところで、最近の若い人の間で猥歌文化ってまだ生き残っているのかな?)

恐らく、桑田さんの青春も、上記データで見られるような普通の男達と変らなかったんじゃないかな。
最初、桑田さんが青学の軽音楽部に入った時、後に奥さんになる原由子は友達と「あの人、怖くて気持ち悪いから近寄るのやめようね」と話をしたという。
また、この2人が結婚する時、桑田さんは「俺は童貞だから」と言い張っていたけど、まんざらでもない感じがしたものだ。

モテなかった男の作品は、だから、現実には役立たない。

一般的にポップミュージックというのは、視聴者にとって、資本主義的啓蒙の側面がある。
例えば、ユーミンの歌詞に出てくるちょっとしたフレーズは、多くの視聴者にとって、憧れるべきニューライフのアイテムになっている。
これらのフレーズは、若者の消費行動の斜め上にあって、知らず知らずのうちに、ある方向に人々を導くものだ。

緑のクーペ(DESTINY)、窓辺に置いたイス(翳りゆく部屋)、裏通りの飲茶(昔の彼に会うのなら)…

しかし、一方、桑田さんの楽曲にはこういった憧れの消費財が出てきて、それが僕たちを巻き込んでくる事はあまり無い。
それは、彼が歌を作るときの視線が、現実のモノに向いてないからだ。彼の歌は、頭の中の妄想で成り立っているのだ。

しかし、この妄想のエネルギーはとっても強い。
桑田さんの曲が未だに、人々の心をつかんで離さないのは、彼のいろんな想いがつまったエネルギーの強さによるところが多いのではないか。

これは、映画「稲村ジェーン」の魅力にも通底しているのだ。
この映画、もう一度、じっくりと見たい。

まさむね