THE BEATLES(DISC-2)

THE BEATLES(DISC-2)

TOCP-51119-20
1967年11月22日発売(英)

●ビートルズ初の2枚組。アップルレコードからの最初のLPとなる。
●RIAA(全米レコード協会)によると全米で1900万枚を売り上げた。
●誰が名付けたのか「ホワイトアルバム」と呼ばれる。真っ白なジャケットには、特製の歌詞付ポスター、シリアルナンバーがついていた。
●聴く人間の年齢、音楽経験値、そんなもので印象がまったく違ってくるアルバムであり、広大なビートルズ宇宙が今も広がっている事を痛感させられる。(大鷹俊一)
●もともとはA doll’s house(人形の家)というタイトル名が考えられていたが、同じ時期、ファミリーというグループが「Music in a doll’s house」という名前のアルバムでデビューしてしまったためこの案は破棄されたという。(「愛の事典」より)

Sgt.Pepper’s Lonely Hearts Club Bandであらゆることをやってしまったビートルズ。彼らの次なる仕事がこのThe Beatlesだった。でもとにかく、演りたい曲をどんどん録音していって後で2枚組にしたって感じもしなくない。音楽ジャンル的には、ロック、フォーク、カリプソ、カントリー、ヘビーメタル、バロック、ブルース、ムード歌謡、童謡、ポップス、アバンギャルド等、あらゆる音楽が詰め込まれていると評されることが多い。

でもよく聴いてみるとトータルで彼らが当時もっていたテーマが見えてくる。 それは、個人と全体、個人と社会、個人とビートルズその相克だ。Revolutionでジョンが発表する「みんな」としては革命には協力するよ、でも僕個人はちょっと待てってそういう揺らぎ。
一人一人のやりたい音楽とビートルズとしてやるべき音楽、その2つに揺れ動いた彼らの内面と、騒乱の時代1968年が見事にシンクロしたとき、このアルバムが生まれた。ポールが夜中、一人でMother Nature’s sonを録音している同じ日の夜、ソ連がチェコに侵攻している。そんな時代だったんだ。

このアルバムが「The Beatles」っていう名前に落ち着く前、「A doll’s House(人形の家)」だったということは示唆的だ。The Beatlesという絶対の存在の前で、ビートルズの一員という役割に限界を感じていたジョン。彼にとってのビートルズとは、この時期、人形の家(不自由な家)にすぎなかったということではないのか。

しかし、結局は、「The Beatles」という名前に落ち着く。「A doll’s House」こそが「The Beatles」だっていう隠しテーマを残したまま...

アルバム一つ一つにユニークに付けられたシリアルナンバーは体制の中で唯一、個を区別する記号だったのか。ちなみに、私が持っていたLPの番号は、A190657であった。ちなみに0000001番は、ジョンが持っていたという。(ただし、ユニーク番号に関しての疑義が「ビートルズの謎」(中山康樹著)から出されている。

Birthday
★★★☆☆

◆(Lennon=Maccartney) V=John,Paul 収録日=1968/9/18

●このホワイトアルバムで唯一、実質的なジョンとポールの共作。
●ヨーコ、パティ、リンダまでもがコーラスに参加。


歌詞は全くいいかげん。

You say it’s your birthday
It’s my birthday too–yeah

今日は君の誕生日だって
僕の誕生日でもあるんだぜ イエー

何も考えてない歌詞だよね。ジョンが後で、クズのような曲と評したのもわかるようなわからないような。
楽曲的には、迫力があるのはいいけど、ヴォーカルが聞き取りにくいのが残念。リンゴのドラムソロも聴けるが、まったくオカズなしで同じリズムを刻む。思うにドラムソロをやらせたら、リンゴほど慎み深く、しかも飽きさせないドラマーはいないんじゃないかな。思わず、タカタカタカタカって叩いちゃうよな。普通。単調さに耐えられなくてさ。僕はこんなところにリンゴの凄みを感じるんだよな。
例えば、新宿駅のアルタの前でたまに、ストリートドラマーが一人でソロやってるけど、技術的には上手いんだけど、その速叩きは、なんだか恥ずかしいんだよな。

演奏は大迫力。カツゼツがもっとよければね。

Yer blues
★★☆☆☆

◆(Lennon=Maccartney) V=John 収録日=1968/8/13,14,20

●当時の英国ブルース・ブームを皮肉った曲。
●歌詞の中にボブ・ディランの「やせっぽちのバラッド」に出てくるミスタージョーンズが登場する。


それまでギクシャクしていたホワイトアルバムのセッションにおいて、この曲を狭い倉庫のようなところで収録し、そこから結束が強まったと言われているが、本当はどうなんだろう。というのも、この曲の収録の直後にリンゴが一時バンドを離れているからね。

このYERっていうのは、ビートルズが自分たちの象徴としてつかうフレーズだよね。「ビートルズがやってくる。ヤアヤアヤア」って言うでしょ、で、その(YERの)ブルースってことは、この曲こそがビートルズのブルースだっていう意味だと思う。

実はビートルズは自分たちのことを「ニセモノ」だっていう意識が合ったんだと思う。勿論、これは誤解を招きかねない言い方なんだけどさ。ビートルズがホワイトアルバムでいろんな種類の音楽が出来たって事は、逆にいえば、彼らは何にも所属する場所がなかったということだと思うんだよな。例えばストーンズにおけるリズム&ブルースみたいな本籍が無いのさ。ジョンは以前、どこかで、自分たちはパクリの天才だみたいな言い方もしてた。
ジョンはおそらく、イギリスにブルースブームが起きたときに、それは全部「ニセモノ」に思えたんだろうな。だからこそ、自分たちが本物の「ニセモノ」をやってやろうと思ったんだと思うよ。それがこのタイトルYer Bluesの意味だと思う。
ちなみに同じようなセンスでつけられたタイトルに「ラバーソウル」っていうのもある。アメリカの評論家がローリングストーンズの歌をニセモノのソウル(黒人音楽)だから、プラスティックソウルって呼んだのを面白がって、それなら、僕たちの音楽はラバー(ゴムの)ソウルだって自嘲気味につけたんだよね。

In the morning wanna die
In the evening wanna die
If I ain’t dead already

朝から死にたくなる
夜になればまた死にたくなる

I’m lonely wanna die
淋しくて死にたくなる

Wanna die yeah wanna die
死にたくなるよ 死んでしまいたい

ビートルズのリーダーとして世界でも最高の人気と富を得た人間が持つこの絶望の言葉はなんということだ。
外的なジョンと内的なジョンの落差に僕たちは驚くしかない。

こんな激しくてストレートな言葉が吐けるところにジョンの天才がある。

Mother Nature’s son
★★★★☆

◆(Lennon=Maccartney) V=Paul 収録日=1968/8/9,20

●ポール一人で夜中にレコーディングした。曲はインドの瞑想キャンプ(リシュケシュ)で作られた。
●レコーディング中にジョンとリンゴが入ってきたがすぐに出て行った。


以前、ビートルズで学ぶ英会話というサイトでこの曲に関して、興味深い指摘があった。

『母なる自然の子・・・と、取るのが普通ですが歌詞カード上で”Mothe Nature’s son“と大文字が使われているのに注目。この大文字が慣用句であることを表していると考えるとまったく意味が違ってきます。”Mother Nature“は「自然の摂理」という意味で、つまりマアその・・・「オシッコ」ってことです。』

なるほど、それでこの歌の2番の歌詞の真の意味がわかった。

Sit beside a mountain stream
see her waters rise
Listen to the pretty sound of music as she flies.

山のせせらぎのそばに腰を下ろし 水かさの増すのをごらん
その流れが奏でる美しい調べに耳をかたむけよう

これはこう訳すべきではないのか。

山のせせらぎのそばでしゃがんで、水かさが増すのを見る
ここで何故、水かさが増すのかといえば、しゃがんでオシッコをするからである
オシッコが飛ぶかわいい音の調べに耳をかたむけよう

ポールの詩は、ジョンのストレートさに対してこういったイタズラがあるから別の意味で奥が深いのだ。茶目っ気あるよね。
一方、曲はこれもまた素晴らしいポールの才能がまさに山の湧き水のようにあふれている。

あとこの曲の3番にSwaying daisiesゆれるヒナギグ)ってあるけど、このヒナギクっていうのは当時のヒッピーを象徴する花なんだよね。Dear Prudence でも、「雲がヒナギクの花輪みたいだ」という歌詞があるけど、リシュケシュはきっとヒナギクが綺麗だったんだろうね。

これもメロディといい、歌詞のお茶目さといいポールらしい名曲。

Everybody’s got something to hide except me and my monkey
★★★★☆

◆(Lennon=Maccartney) V=John 収録日=1968/6/27,7/1,23

●マハリシの講義を歌詞にしたという。
●ビートルズの曲の中で最も長いタイトル名。


この曲のポイントはMonkeyっていったい何?ってことだと思う。

ジョン自身は、Me&My Monkeyは、自分とヨーコのことだって言ってる。この曲の収録の1ヶ月前に「トゥーバージンズ」という二人のヌード写真をジャケットにしたアルバムの収録をしている二人。「僕らには何も隠すところがないのよ」っていうこと。

ただ、別の解釈もある。このMonkeyっていうのはヘロインの隠語でもあるんだ。Come togetherMonkey fingerって歌詞があるけど、これは猿の指じゃなくて、ヘロインを注射する指ってことさ。ここの歌詞をその通り取ると「ヘロインは嘘をつかない」って事。まぁ、よく酔っ払いは「酒は嘘をつかない」ってうそぶくのと同じ心境か。

また、Monkeyっていうのは500ポンド硬貨の俗称でもある。よく、ルーニーとかクォーターとか海外の硬貨はあだ名があるでしょ。その一種ということ。これは香月利一さんっていうビートルズ研究家が言ってるんだよね。ようするに当時、アップルコープを立ち上げ、金に対して意識が高まっていたジョンがお金だけは嘘をつかないよという本音を漏らしたのかもって言えなくも無い。

最後の解釈はこのMonkeyを本当にと解釈するもの。「Why Don’t We Do It In The Road」は、インドで突然目の前の猿がセックスをはじめたことに衝撃を受けたポールがこの曲を書いたということをどこかで言っていたけど、同じくジョンもこの曲を書いたんじゃないかな。「猿は何も隠さない」って思ったんじゃないかな。

僕は、ジョンが自分の曲に関して、後から、あれこれ言うのは正確な事ばかりではないんじゃないかと考えてる。嘘ついてるってわけじゃないけど、勘違いがあったり、あえてそうじゃない発言をしたりするんじゃないかな。そういう一筋縄ではいかない男だよ。ジョンは。

僕はこのカウベルが大好き。カモンカモンカモンっていう狂気の叫びも好き。ジョージのギターも好きだ。

Sexy Sadie
★★☆☆☆

◆(Lennon=Maccartney) V=John 収録日=1968/8/13,21

●マハリシヨギがインドの瞑想キャンプで女を強姦しようとしたという噂を聞きつけたジョンが、裏切られたと感じて作ったと言われている。
●曲のタイトルにマハリシの本名を出そうと思ったが、ジョージに説得されてやめたという。最初は、Maharishi, what have you done?(マハリシ、君は何をした?)”だったという。


マハリシといえば、今でも信奉者がいる。マハリシ総合研究所ってまだ新宿にあるらしいし。だが、偉大な権力を手中に収めた宗教家はえてしてこういうこと(女に手を出す)ことをやるもんなんですかね。オウムの麻原もそうだったよね。
別のエピソードだけど、こんな話がある。リシュケシュにヘリコプターがやってきた。マハリシと一緒に乗りたい人って言われてジョンが真っ先に手を上げた。後で聞いてみると「マハリシと2人きりになったところで人生の秘密を聞こうとおもったんだよ」って言ったという。ポールがアンソロジーで嬉しそうに語っていた。
ジョンのその無邪気な好奇心を踏みにじった形になってしまったマハリシ。それでもジョージはマハリシを信じ続けたという。

ちなみに、僕が高校の頃、「ガキデカ」って漫画が爆発的に流行ったんだけど、その漫画の主人公・こまわりくんの小学校の担任の先生のフィアンセが清治さんっていったんだけど、その人を頭に浮べて「セクシーセイジ~♪」と歌ったものだ。全くもって個人的な経験だが、こういうところに書かないともう書くこともないと思ったので敢えて書かせていただきました。

エンディングのギターがとっても美しい。

Helter skelter
★★★☆☆

◆(Lennon=Maccartney) V=Paul 収録日=1968/9/9,10

●ザ・フーの「I Can See For Miles」に対する「やかましいだけ」と書いた文章を読んだポールが最高にやかましくてダーティな曲を書いてやろうとしてこの曲を書いた。
●曲の最後の叫びはリンゴの「指にマメができたじゃないか!!!」。
●ヘルタースケルターとは、イギリスの遊園地にある螺旋状の滑り台の事。Free as a birdで一瞬画面に登場する。
●シャロンテート事件の犯人、チャールズマンソンが殺戮現場の壁にこのタイトルを書いていたという。


1968年の混沌と動揺を音で表現したのがこの曲。ビートルズらしくないといえばらしくない。カラオケで歌おうとすると最初の歌いだしのところの音程を維持するのが難しい。

ジョージのギターはこういう曲には合わない。でも頑張れジョージ。

Long,long,long
★☆☆☆☆

◆(George) V=George 収録日=1968/10/7,8,9

●スピーカーの上にあったワインボトルが振動し、そのカタカタ音、共鳴音がそのまま曲の中に入っている。いいかげんと言えばいいかげんなな話だ。
●この曲の収録中、スタジオ内ではお香がたかれたという。
●ホワイトアルバムの中で一番音量レベルが低い曲。


この時期、ジョージが用意した曲には、この曲の他にも「Not guilty」とか、「All things must pass」とか名曲があるのに、なんで最終的にこの曲が収録されたんだろうか。勿論、そういった歴史的決断は、それはそれで味わいがあるんだがな。

あと、最後のうめき声みたいなのってどう?ホワイトアルバムが不気味って言われる所以の一因がここにもあるよね。

不気味さが意外に印象に残ります。

Revoltion 1
★★★☆☆

◆(Lennon=Maccartney) V=John 収録日=1968/5/30,31,6/4,21
●ジョンが当時の政治状況に対して一言物申したくて収録した曲。
●破壊は創造につながるのか。破壊をするのなら、僕を数に入れないでくれ、いや入れてくれ と優柔不断なジョンの人間味ある歌詞。
●カタカタって音はタイプライターの音。

●ジョンは寝たまま仰向けになってこの曲を収録した。
●ホワイトアルバムで最初に録音された曲。


当時、新左翼の連中と付き合いがあったジョン。暴力革命に対しての自分の意見を表明した。この曲に対して、一般のファンには、小難しいやつと思われ、本物の左翼からはブルジョアとか走資主義と罵られたジョン。当時バリ封した教室でレコードプレイヤーを持ち込み、この曲をかけていたという全学連の闘士が沢山いたそうだが、なんとなく雰囲気で人々が動いた時代だったんだろうな。

一方、羽切美代子という人は「世界の果てまでも」というビートルズ詩集の中こんな勝手な訳をしていた。

前進するならば 方法はただひとつ それは革命さ
心ある人のために 必要なものは それは革命さ
わたしも仲間に入れるか 裸になって待つだけ 待つだけ オーライ
自由をとるなら 鎖をとるなら それは革命さ
偽善を憎むなら 方法はただひとつ それは革命だけさ
ひとりひとりが力があることを破壊することを学ぶ オーライ
平和をのぞむなら その前にすること それは革命さ
前進するならば 方法はただひとつ それは革命だけさ
ひとりひとりが力があることを破壊することを学ぶ 学ぶ オーライ

誰も英語がわからないと思って、ビートルズの名前を語って、自分の思想(のようなもの)を主張するなっていうの。ジョンはあえてそういった誤解(この歌を革命歌にしようとする誤解)をさけようと、ダラダラ歌ったのにね。
また、あの「スローなブギにしてくれ」の著者・片岡義男氏は、以下の部分を、

You say you’ll change the constitution
憲法を改正するとあなたはいう

と訳している。ここで歌われているのはそういう問題じゃないと僕は思うんだが…

ところで、この曲で一番、カッコいいのはやっぱり下の部分だ。

You better free your mind instead
But if you go carrying pictures of Chairman Mao
You ain’t going to make it with anyone anyhow

まず自分の精神を解放したらどうだい
毛沢東の写真を持ち歩いているようじゃ
革命なんておぼつかない

そういう偶像崇拝しているヤツっていたんだろうな。でもジョンは当時、地上の楽園とまで言われた中国の文化大革命の本質を見抜いていたんだな。

だらけた雰囲気がまた、時代状況を表していてグ~。

Honey pie
★★★★☆

◆(Lennon=Maccartney) V=Paul 収録日=1968/10/1,2,4

●古きよきジャズの香りがする。
●ジョンが渋いリードギターを弾いている。


昔の恋人がいつの間にか手の届かないスターになっちゃったっていう物語。僕は勝手にI’ve just seen a faceDrive my car の続編って考えているんだけどな。気の弱い男と、美人で奔放な女の子の恋の話さ。
当のビートルズだって逆の意味でおなじようなものだ。昔の彼女にそう思われているに違いないのだ。後にジョンはアメリカに定住するが、ポールはずっとイギリスにとどまり続ける。
ポールのアメリカ嫌いが批判と言うより皮肉という形で込められていると僕は思ったんだが、ポール自身は、「僕が子供時代に聴いていたヴォードヴィル音楽へのオマージュみたいなもの」と語っている。
ジョンはこの曲を嫌いだったみたいだけど、彼のリードギターには味がある。「Get back」「You can’t do that」と並んでジョンのビートルズ時代3大ギターソロ。面白いのはこの3曲それぞれ違った雰囲気のギターソロだってことだね。

楽曲的には、これはこれで楽しいし僕は好きだな。ポールってなんでも出来るのね。
下の部分で擦り切れた古い78回転盤みたいな音になるんだよな。

Now she’s hit the big time
今じゃ彼女は大スター

「ポールって何でも出来るんだね」的名曲がここにもあった。

Savoy truffle
★★★☆☆

◆(George) V=George 収録日=1968/10/3,5,11,14

●甘いものが好きで虫歯に悩むクラプトンをからかった曲。お菓子の名前が一杯出てくる。
You know what you eat, you are食べ物を見れば、その人がわかるんだ)の部分はデレクテーラー(アップルの広報部長)が作った。


中山康樹氏はこの曲にジョンが参加していないのにいい曲である事を根拠に、ジョンがいなくてもビートルズは成立するのだと暴言を吐いている。まぁ言わせておけばいいさ。

この曲の歌詞で一番重要なのは以下の部分だと思う。

We all know Obla-Di-Bla-Da
But can you show me, where you are?..

オブラディオブラダのことは誰でも知っているけど、君はどこにいるんだい?(姿を見せてご覧)

ジョージはポールにこう言ったことがある。「僕はそんな風に歌は作れない。君は何でも作り上げちゃうだろ。自分にとっては本当は何の意味も成さないことでも」と。すなわち、上記の部分はジョージによるポールの曲つくりに対して、お前の曲には、自分自身がいないじゃないかっていう批判をしているんだと思う。実は、この「君はどこにいるんだい」っていうフレーズは、Only a northrn songの「And I told you there’s no one there」(言ったとおり、そこには誰もいないんだぜ)というフレーズにも通底すると僕は思う。

でもそういった批判を歌詞の中に、さりげなく挿入するところがジョージのセンスだよね。まぁ慎み深い悪意というかね。

力強いギターが印象的。ジョージ久々のロックンロール。

Cry baby cry
★★★★☆

◆(Lennon=Maccartney) V=John 収録日=1968/7/16,18,9/16

●最後の「Can you take me back where I came from can you take me back…」ってところはポールが I will 収録中にアドリブで歌ったのをそのまま継ぎ足した。
●泣きなさい 赤ちゃん 泣きなさい お母さんに買わせなさい というベビー用品のCMをヒントにジョンが作った。


次のマザーグースのなんとも不気味な一節を下敷きにしているのは明白だ。「CRY,BABY,CRY PUT YOUR FINGER IN Y0UR EYE AND TELL Y0UR MOTHER IT WASN’T I」(泣け、赤ちゃんよ泣け、自分の指を自分の眼の中に入れて、お前のお母さんに、これは僕がやったんじゃないんだよっていいな。)

なんとも、不気味で暗く、懐かしく、そして魅力的なジョンの曲だ。おとぎ話のような、それでいて王室批判のような不思議な世界だ。
この曲がどうして不気味なのか、おそらく、このCry baby cryと歌っている主体がわからないということではないのか。僕が想像するに、この主体はどこか超自然的な存在、でも神というような崇高な存在ではない。身近な超自然的存在、すなわち日本でいうならば、妖怪、ケルト的に言えば、妖精のようなものではないのか。
この曲は4番でこう歌われている

At twelve o’clock a meeting round the table For a seance in the dark
12時になると みんながテーブルを囲み闇の中で降霊術の会が開かれた

これは、僕の想像だが、この降霊術の会で現世に現れてきた妖精が、赤ちゃんを泣かせようとイタズラをする。
何故イタズラをするかって言えば、現世からあの世に帰れなくなって怒っているからだ。そこで、最後のポールの歌が生きてくる。

Can you take me back where I came from can you take me back…
元いた場所に戻してくれるかい 僕を元いた場所にもどして...

これが僕の解釈だ。
と同時に、最後のポールが歌う「Can you take me back where I came from can you take me back…」(もといたところに戻して)っていうのは、Get back セッションのテーマにつながっている。ポールの気持ちの中ではそういう気持ちがはじまっていたんだね。
ちなみに、ジョンは後にこの曲に関して「僕じゃないよ。くだらない曲だ。」と語っている。

ケルト臭ただよう不思議な世界。淡々とした名曲。

Revoltion 9
★★★★★

◆(Lennon=Maccartney) Sound Collage 収録日=1968/5/30,6/6,10,11,20,21

●ジョンがビートルズの中で最も時間をかけたという曲。
●ジョン曰く「革命を絵にしたようなもの」とのこと。
●リンゴとポールは不参加。特にポールは最後までこの曲をホワイトアルバムに入れることに反対したという。
●オノ・ヨーコの影響が最も強く出たビートルズナンバー。


この曲をどう評価するかでその人のビートルズに対するスタンスが決まってくるような曲。中山康樹氏はただのガラクタと切り捨てる。僕的にはありだな。
こういった前衛音楽はそれがどういった文脈に置かれるのかってことが重要になる。例えば、有名なのは、マルセル・ジュシャンが便器を展覧会に出展して「泉」と名付けたように。20世紀の芸術はコンテクストと常識の破壊がテーマになっている。
ジョンにしてみれば、この曲を、ビートルズのアルバムという文脈に入れる事がどうしても必要だったのではないか。その場所で聞かれるからこそ意味があったんだと思う。そして、そうされることで完璧なコンセプチュアルアートになったわけだ。なにせ全世界で3000万枚位は売れたんだからね。ホワイトアルバムは。

中身は混沌の世界。銃声があり、叫びがあり、朗読があり、サッカーの応援があり、赤ちゃんの鳴き声あり、ジョンのイビキがあり、それらをかいくぐって、ナンバーナイヌというエンジニアの声が繰り返される。そして曲も終盤にさしかかったところでヨーコが「You became naked」(あなたは裸になったのよ)と語りかける。それはジョンに対して言っているのか、リスナーである僕らに対して言っているのかは不明だが、なんだか救われたような気がするのは僕が騙されているだけなんだろうか。

1968年という混沌とした年、その年を「音」としてパッケージ化したら、こうなりましたっていうことだと思う。
繰り返すが僕はこの曲、嫌いじゃない。たまに聴きたくなる。

ただ、ジョン自身、アバンギャルドって意識はそれほどなかったのかもしれない。普通にいい曲だと思っていたのかもしれない。彼は言っている。「どんな音楽を聴くのかってみんなから訊かれるんだよね。僕は車が走る音を聴き、鳥の歌う声や人が呼吸する音を聴く。それに消防車。昔はよく夜に水道管の音を聴いたね。灯りがすっかり消えた中で、水道管が演奏するんだ。」

ジョンはどこまでも正直者だ。

世界のアイドルがついにここまでやってしまったか。たまに無性に聴きたくなる。

Good night
★★★☆☆

◆(Lennon=Maccartney) V=Ringo 収録日=1968/7/22

●本来はジョンが息子のジュリアンに作った子守唄だが結局はリンゴに歌わせた。
●バックのオーケストラは35人編成。ビートルズの他のメンバーは声も楽器も入れていない。リンゴだけっていうのはこの曲だけ。


Revoltion 9が終わってこの曲が始まった時、多くの人はホッと安心するんだと思う。そういった意味でこの流れは正解。

のちにジョンはショーンにBeautiful boyって曲を書いて「モンスターは行っちゃったよ。ダディはここだよ」みたいな歌詞にするんだけど、さしずめ、ホワイトアルバムのこの流れでは、Revoltion 9というモンスターが去った後、安心してお休みっていう流れか。違うか?

ホワイトアルバムという混沌世界をこの曲がすべて帳消しにしてくれるような優しい曲。だと僕は思う。

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